とにかく頑張れと心からのエールを送って、電話を終了した。


海莉ならきっと大丈夫。一生の思い出に残るような素敵な時間を先輩と過ごせるよ!


―― トントン。


ドアをノックする音が聞こえて、勉強机に座っていたあたしは「なに?」と返事をしながら、後ろを振り返った。


静かにドアが開いてお母さんが顔を出す。


「瑞樹、買い物のお使い頼まれてくれない? お母さんちょっと用事ができちゃって」


「いいよ? なに買ってくるの?」


「お好み焼き粉と、パン粉と、あとホットケーキミックス粉。夕方まででいいから」


「うん。わかった」


「よろしくね」


部屋に入って代金を手渡したお母さんが、すぐまた部屋から出て行く。


閉じられたドアを見ながら、あたしは小さく息を吐いた。


最近は、前よりはお母さんと楽に会話できるようになった。


息をするのも苦しかった家の空気も、重々しさが少しずつ薄れていってるような気がする。


でもやっぱりお母さんはあたしから目を逸らしがちだし、どことなく澱んだムードが漂っている。


あたしの方も、相変わらず両親に対して聞きたいと思ってることを聞けないままでいるし。


それがあたしにとって、わだかまりになってる自覚はある。


でも、怖くて聞けない。


いつになったら、この家の空気もお母さんやお父さんとの関係も、元通りに戻るのかな?


もしかしたら、もう二度と戻らないのかもしれないな……。