だから、同じ想いを持つ者として簡単には彼女を責められない。


「甲斐くんも甲斐くんだよ。ちょっと優しすぎない? 『上級生のクラスに、たいした用もないのにちょくちょく来んな』くらい言ってやればいいのに」


「そんな乱暴な。べつに下級生が上級生のクラスに来ちゃダメって校則はないんだし」


「ああいう図太い子には、それくらい言ってやった方がいいんだよ。校則になくても、周りを不愉快にさせないなんてのは常識でしょ」


「誰が不愉快になってるのよ」


ちょっと笑って言いながら、自分でも白々しいなと思う。


でも、表立ってそう言うしかないんだよ。だってあたしには不愉快になる権利なんてないもん。


「あたしが不愉快なの! 何度も言うけどあの子嫌いだから」


複雑な心境のあたしの代わりに、海莉は容赦なく本音を吐き出す。


「あの子が吐いた二酸化炭素がこの階の空気に混じってると思うと、マジでムカつくレベル」


「そこまで嫌う?」


「嫌う。瑞樹以外で甲斐くんを好きな女と、関先輩を好きな女は全員、あたしの敵だよ」