「野口は仕事が丁寧だから時間がかかってるだけなんだ。それをちょっとは褒めてやれ」


掃除をしながら隆二は春子へ向けてそう言った。


隆二にそう言われて春子は居心地が悪そうに身じろぎをし「わかってるよ」と、口を尖らせた。


「ほら、終わったぞ」


拭き掃除を終えた隆二があたしに雑巾を返して来る。


「あ、あの……ありがとう」


おずおずとそう言うあたしに隆二は笑顔を見せた。


その笑顔に胸がドキンッと跳ねるのを感じた。


隆二は正義感が強くて優しい。


それはあたしにだけじゃなく、クラスみんなに対してだ。


そう思うと少しだけ胸が痛んだけれど、今はこのままでいいと感じられた。