バスケットからたちのぼる焼きたての香りが、階段を先に行く奈々のほうからあたしの頭上に向けて降りてくる。 うう、めちゃめちゃおいしそうで、補習の疲れも消し飛ぶよ。 だって、この香りは。 「これ、フィナンシェだ」 「そう。ちとせ好きだよね」 「うん! 大好き!」 「パパにいっぱい焼いてもらったから、まだまだあるよ、帰りは持って帰ってね」 「わぁ、ありがとう!」 よくここで買い物するんだけど、あたしはフィナンシェが大好物で。 遊びに来た時にもよくごちそうしてくれる。