「一応嫁入り前なので、気を使って別室に泊っていただきたかったです」

「俺もなんでこの部屋に来たのか分かんねーんだもん。酔ってたし。無意識」

「酔っていたは免罪符にはなりませんよ」

とはいえ、責められないくらいには私も酔っていたので、これ以上言うのはやめよう。

「まあいいです。別に何もなかったようですし。この件はお互いに他言無用ということで。……お世話になったようなので、葉菜さんにご挨拶してきます」

葉菜さんというのは、城治さんの奥さんだ。
客間になっている部屋を出ると、廊下が広がっている。
城治さんと葉菜さんは、結婚以来この3LDKのマンションに住んでいる。
お子さんは、娘さんがひとりで、現在中学生。今日はいないのだろうか。

きょろきょろとあたりを見回しつつキッチンを覗くと、葉菜さんが料理中だった。

「葉菜さん、お世話かけてすみません。手伝います」

「あら、美麗ちゃん。いいのよ。あんなに酔うなんていいお酒だったんでしょう。頭痛くない?」

「大丈夫……は嘘かな。頭痛薬あります?」

葉菜さんは城治さんと同い年で、私の憧れの“できる女性”だ。
現在ジーザスシステムのシステム開発部長さん。面倒見も良くて、私だけじゃなく、職場の後輩の人たちも葉菜さんを慕ってよくやって来るそうだ。