「マジ?」
「はい」
「嘘だろ? 世の男は何をやって……。ああでも……お嬢だからか」
ブツブツとひとりで納得するようにつぶやかれる。
甘い雰囲気が一気に遠ざかってしまって、心臓が握りつぶされたみたいな気持ちになった。
「……じゃあ、やめとく?」
ああやっぱり。処女の相手なんてめんどくさい?
これで引かれたというなら、無性に悲しい。
彼の体が離れていくのを見ていたら、涙が浮かんでくるのが止められなかった。
「……っ」
両手で顔を覆って隠そうとしたけれど、鼻をすすった音ですぐ気づかれてしまう。
「なんで泣くんだよ」
「だって。……そんなに面倒くさいですか。処女は」
「は? 違うだろ? 初めてなら、……こんなところじゃ嫌だろ? もっといいホテルとか。旅先とか。なんつーか。いい思い出になるような……」
「……え?」
阿賀野さんの顔が、みるみる染まっていくのが薄暗がりでもわかった。
ああ、この人ってもしかして。
「ものすごいロマンチストです?」
「だって! 一生もんの思い出だろうが」
真剣な顔で言われて、お腹の底から笑いが込み上げてきた。
だって、遊び人だって思ってたのに。そんなことを気にするだなんて。



