その時、私のスマホが鳴り、彼は驚いて身を離す。

「うおー、ビビった」

「ごめんなさい。マナーモードにしてなかった」

慌てて取り出し、自宅の番号なのを確認して切る。

「いいのか?」

「電車内なので、メールにします」

そのまま【今、電車内なので電話には出れません】と打ち込んで父の携帯にメールを送る。

「……美麗、俺さ」

何か言おうとした阿賀野さんの言葉を遮るように、父からのメールが届く。

【昼までに帰ってこい。今日は三ツ和銀行との会食の予定なんだが、あちらの会長が建設したという私設美術館を見せてもらうことになってな。お前にも来てほしいんだ。ついでに片桐君も呼ぶから】

「は? 片桐さんも?」

思わず声に出してしまって、口を押さえる。
だけど遅かった。片桐さんの名前が出たことで、阿賀野さんの表情が先ほどまでと変わった。

「誰からのメール? 家からだったんだろ」

「いえ、その、父からなんですが。……片桐さんと一緒に出掛けてほしいところがあるって」