電車に乗ったら、きっとすべてがもとに戻る。
彼はちゃらんぽらんな元バックパッカーのままで、会社に戻れば適当に気に入った女の子と付き合うんだろう。
私はこのまま片桐さんとの友好を深めて、時期を見て父が彼に縁談を持ち掛け、おそらく結婚する。
早々に子供をもうけたら、子育てのほうに力を入れて、もしかしたら最終的には仕事を辞めるように言われるかもしれない。少なくとも、父の考えている私の人生プランはそんな感じだ。

それで、いいの?

心の奥底から、今まで考えたこともないような言葉が聞こえてきた。

ポツリ、頬に雨が落ちる。田舎の駅は、ホームに屋根があるのはごく一部で、私たちが経っているところに屋根はなかった。

空に一筋閃光が見えた、と思ったら、激しい雷鳴がとどろいた。
急速に雨が強くなり、「大丈夫か? 美麗」と、阿賀野さんは私にスーツの上着をかぶせた。

私の名前を呼んだ。
私は自分の体が濡れていくことよりも、そこに気を取られた。
特別な今日は、まだ終わっていない。

【お待たせいたしました。次に発車する電車は……】

アナウンスと同時に目の前の電車の扉が開く。
私を先に乗せようと阿賀野さんが背中を押したけれど、私の足は動かなかった。

「……ダメです」

「美麗? 乗り遅れ……」

「あ、阿賀野さんのせいですよ? 私、迷ったことなんてなかったのに」

乗っちゃいけない、なんて、思ったことがなかったのに。
父の敷いたレールに。