「ちょ、なんですか」

「早速デートしよう」

「早速って何? え、え? ちょ、瀬川さん助けてっ」

「いいじゃん。お前今フリーだろうが」

いやフリーだけど、でも婚約者候補が一応いますし、そもそも私は「ハイ」なんて言ってない。

「……阿賀野、犯罪者にだけはなるなよー」

駅に着いたとたんに、瀬川さんは行ってしまった。
ああ、頼りにならない。
しょせん、瀬川さんにとって私なんて助けるに値しない人間なのね。

「じゃ、どこ行く?」

「付き合うなんて言ってませんよ。阿賀野さん私のことなんて好きでも何でもないくせに」

「でもお前だって、好きも何でもないやつと婚約するんだろ? 政略結婚とやらで」

「ちが……結婚前提にお付き合いして、お互いに合うか合わないかお試しするんですよ。もちろん合わないときはちゃんとお断りします」

「だからおんなじだろ。試しにデートしてみるのは」

いや待って。
見合いとか政略結婚とかはさ、それに至る前に、お家柄とかのすり合わせがあるのよ。
どう転がってもいい相手だと判断してから顔合わせがあるわけ。

間違っても思い付きで言う「付き合おう」とは質が違う!

そう反論しようと思った時には、もう切符が買われていた。

「どこ行くんですか!」

「思いつかないから、とりあえず最終まで。おもしろそうなもの見つけたら降りようぜ?」

さすが元バックパッカー。まさかの無計画。
ない、ない。それに私の服装は昨日の仕事あがりと同じまま。
部屋に帰ってシャワーを浴びてスッキリしたかったのに。

なのになに? この拉致状態は。
しかも、二の腕を掴まれているもんだから、ときどきうっかり胸が当たる。

でも悪気はなさそうだし、どう注意したらいいものなの。