それから、自分の名前――。
 アタシはいつの間にか、周囲に『千尋』と呼ばれていた。
 両親が付けてくれた名前かもしれないと思っていた時期もあった。
 でも、生まれてまもなく捨てられた自分に両親が付けた名前がある訳ないんだよなぁ――って、5歳になった頃にはたと気が付いてしまった。
 それからは施設の大人が名前のないアタシに勝手に付けた名前なのだと考えるようにした。
 とにかく、アタシはいつの間にか『千尋』と言う名の身寄りのない少女になっていた。


 そして、アタシは常に一人ぼっちだった。
 同じ施設にいるんだから、周りの子供達だってアタシと同じ境遇だったろう。
 でも、何となく馴染めなくて――。キャッキャッと笑い声を上げて、楽しそうに遊ぶ子供たちの輪に混ざることなく、遠巻きからその様子をただじっと見つめるだけの生活を送った。
 笑い話にもならないけど、施設の職員さん達が精神を多少病む程度に、当時のアタシは頑なに孤独を好む陰キャキッズだったわけよ。
 マジ、ウケる。


 そんなぼっち街道まっしぐらだったアタシにある日、転機が訪れた。
 現在の両親。つまり、私を養子として引き取った宮間夫婦との奇跡の出会い。
 どんなに頑張っても子供が出来なかった父と母は、アタシのいた児童施設のことをたまたま知って、養子を求めてやって来た。
 そして引き合わされたアタシを一目で気に入って、そのまま、あれよあれよと手続きが進んで、そのまま引き取ってくれた。
 6歳の誕生日に血は繋がっていないけど、優しい両親ができた。
 めでたく陰キャ卒業か? と、思われたが……まだしばらく、暗黒時代は続くんだよね。