「山南さんがいない?!」




明くる日の朝。

局長近藤のもとに早くもその知らせが山崎によって伝えられた。




「まじかよ」



近藤の部屋に原田と永倉も訪れて、騒ぎは次第に広がり局中に広まった。




「……局長!どうするんですか」



隊士の一人が間を割って声をあげると、土方が近藤を睨み付けた。




「脱走者は即刻連れ戻すまで」




その場は静まって、屯所の近くにある壬生寺にいた遥は石段に座っていた




(そろそろ皆気付いた頃だろうか……)




「おーい」



ボー、としていた遥に、壬生寺の入り口まで来ていた沖田が声をかけた。



「沖田さん、どうしたの?」



「これから山南さんを連れ戻しに行ってくるんだ」



ジャリジャリ、と砂利道を歩いてくる沖田に、遥もつめよった。




「そっか」

「知ってたの?」

「ううん。沖田さんだけなの?」




沖田が頷いてにっこり笑った。




「近藤さんは心の優しい僕に、山南さんを連れて帰れないのがわかっているんですよ。
だから、山南さんを逃がすために僕だけ、ということなんだ」