初夏を告げる爽やかな風が、頬を撫でた。


あたしは少しずつゆっくりと、話した。


体育の時間に桜子ちゃんから聞いたこと、南里くんから告白されたこと、今朝煌くんに伝えたこと。


千春ちゃんは、そのすべてに絶句していた。



「南里くんは、もしかしたらそうかな……って思ってたんだけど……。その、煌さんの小学校の話とか……ほんとなの……?」


「……ほんと、だよ」



だって、ちゃんとあたしの記憶にあるんだもの。


桜子ちゃんの作り話でもなんでもない。



「だとしたら南里くんの言うように、その頃から愛莉のことが好きだったんじゃないの?」



希望を残そうとしてくれる千春ちゃんに、ううん、とあたしは首を横に振る。


千春ちゃんも負けじと持論を説く。



「小学生ならまだしも。高校生になってまで普通そんなことしないよ。いくらなんでもそこまで暇じゃないと思うよ」



そう言われても。


……煌くんは普通じゃないもん。



「ありがとう、千春ちゃん。もういいの。日常が戻ったと思えばそれでいいんだから」



そう。

煌くんに出合う前のあたしに。


平穏で、男の子になんて関わらない日常に。


ふと視線を落とすと、お弁当箱には、いつものように卵焼きが残っていた。


ははは。

クセになっちゃってるんだなぁ。


もう、煌くんには食べてもらえないのに……。


そんな寂しさをふと抱きながら、あたしは卵焼きの味をかみしめた。