***
「遅いよ愛莉」
ドアを開けた瞬間、拗ねたように放たれた言葉。
いつものように定位置に座ったまま、あたしをじっと見つめている。
唇を尖らせて、少し眉を下げて細めた目からは哀愁さえ感じる。
……ちょっと遅れただけで、そんな捨てられた子犬みたいな目をして。
でもなんだかその目が可愛いと思ってしまった。
こんな煌くんの顔が見れる人なんてなかなかいないよね。
教室では絶対に、そんな顔しないから。
って、やだ。あたし、煌くんのそんな顔が見れて嬉しいみたいじゃん……。
「HRが長引いてしまって」
こんなときは、嘘も方便だよね……?
どきどきしながら煌くんのそばに近づいていく。
変身したあたしを見て、煌くんはどう思う?
あたし、煌くんにどう思われたいんだろう。
自分で自分の気持ちが分からないよ。



