こんな中でもピンポイントで、目があってしまうことが、驚きである。

反射的にパッと手を放してしまう。その間にも彼は進んで行ってしまう。けれど視線を離せない。

果たして私は声を掛けるべきか否か。もしくは笑ってでも見せればいいのか。それとも彼と居るのだから無視を決め込むべきなのか。


「っ――」


葛藤している間にゆっくりと表情が変化した。まるでスローモーションのようだった。

神楽君は悲しそうな、今にも泣き出しそうな表情を浮かべたのだ。

それが意味するところは私には分からない。

その表情を見せた神楽君は踵を返して、再び雑踏に紛れてしまった。


「……ねえ、何してんの」

「あ、いえ、何でもないです……」


果たして意味することは。