『今すぐ来い。
 気が変わりそうだから』

 逸人さん、今、なんて言いましたか?

 さっきの圭太の言葉よりも理解できない。

 逸人は年下のくせに、いつも私を見ては、溜息をついているような男だったはずだが、と芽以は耳から離したスマホを見つめながら固まる。

 だが、よく通る逸人の声は、離れた位置からもよく聞こえた。

『断ったら、圭太がうるさいから』

 とりあえず来い、今すぐ来い、と言う。

 この弟は兄を絶対、兄とは呼ばない。

 昔から呼び捨てだった。

 いや、そういえば、最初からではなかった気がするが。

 小さな頃は二歳の差は大きかったはずなのに、逸人の方が落ち着き払っていて、圭太以上になんでも出来たから、圭太も弟が呼び捨てにするのを許していたようだった。