だが、逸人は、特にそこから甘い雰囲気を作り出すでもなく、
「そろそろ帰るか。
 下りるぞ」
と言って、さっさと出て行ってしまった。

 あとを追っていかなかった芽以を、振り返ることもせずに。

 な……なんなんですか、一体、と部屋の真ん中で立ち尽くしている芽以を母が下から呼んでいた。

「芽以ーっ。
 逸人さん、帰るって言ってるわよ。

 なにトロトロしてんのよ、あんたっ」

 ふらふらと下に下りる。

 兄たちと逸人が談笑して、別れの挨拶をしているのをぼんやり聞きながら、芽以はずっと思っていた。

 ……なんなんですか、ほんとうに。

 自分も機械的に挨拶をし、そのまま、逸人について、外に出る。