「……逸人じゃないか」
と言ったあとで、後ろを向き、

「おかーさん、逸人の方が来たー」
と言っている。

 『の方が』ってなんですか、お兄様……と思っていると、サンダルを引っ掛けて出てきた兄、聖《ひじり》は、

「いやあ、悪い悪い。

 昨日のイブ、ケーキ食いに来いって誘ったら、芽以が、圭太と会うって言ってたから、てっきり、圭太を連れてきたのかと」
と悪びれもせず言う。

「お久しぶりです」
と逸人はそんなことを言われても、特に嫌な顔もせず、手土産に買ってきた酒を渡していた。

「おっ。
 わかってるじゃないか、逸人~」
とクリスマスなのに、何故か日本酒を持ってきた逸人の肩を叩き、まあ、入れ入れ、と言う。

 ……そういえば、日本酒好きだったな、お兄ちゃんもお父さんも、と如才ない逸人をチラと見る。