やっ、やめてくださいっ。

 どきりとしてしまうではないですかっ、と思ったが、逸人は、すぐに手を離した。

 こちらを見ないまま、歩き出した逸人は、
「荷物運ぶ前に、お前の実家に挨拶に行くか」
と言い出した。

 久しぶりだな、と言う逸人に、
「なんでですか?」
とうっかり言ってしまい、

「結婚するのに、親に挨拶しないとかあるか」
と言われてしまった。

 歩幅の違いか、気持ちのせいなのか。

 やはり、少し逸人から遅れながら、歩いていく。

 その広い背中を見ながら芽以は思っていた。

 ……あのー、私たち、ほんとに結婚するんですか?

 いや、もうサインもしたし、ハンコも押しちゃいましたけどね。