逸人はもちろん知っているだろうが。

 トレンチコートのベルトについているDリングという金具は、手榴弾をぶら下げるためのものだ。

 トレンチコートは元々軍用コートだったからだ。

 そして、肩についているエポーレットという肩飾りは、階級章をつけるだけでなく、仲間が倒れたときに、それを引っ張って、助け起こすのにも使われていたものだ。

 だから、今の日本の自衛隊や警察の制服にもこのエポーレットは付いている。

 あのエポーレットがあるから、肩幅が広い人が特に良く似合う気がするんだよね、トレンチコート。

 などと考えていると、逸人は、
「……圭太はよくお前と会話するな」
とその禁句な名前を出して、ぼそりと言ったあとで、

「なんでもいいが、横に来いと言ってるだろ」
と言い、芽以の肩に手を回すと、自分の横へと引っ張った。

 うひゃっ、と間抜けな声を上げそうになる。