思わず、おのれの顔と頭をかばうように上げた手を見て、逸人が、
「……なんだ、それは」
と言ってくる。

 いや……、条件反射です、なんとなく。

 まあ、子どもの頃から、この人が暴力的行為に走るのを見たことはないのだが、と思っていると、

「おい、なんで後ろを歩くんだ。
 俺が引率の先生みたいになってるだろ」
と逸人が言ってきた。

 いえその、妻は、三歩下がって付いていくものかと……と芽以は誤魔化すように笑いながら、心の中だけで言い訳をしていた。

 口から出てはいなかったが。

 はは、と苦笑いしていると、溜息をついた逸人が、
「なにかしゃべれ」
と言ってきた。

「は?」

「黙って二人で歩いてると、気まずいだろ」

 貴方でもそういうことを思うんですか、と芽以は意外に思う。

 しかし、急に、しゃべれと言われても。