定時に仕事が終わり、ビルの外に出ると、ロングの黒のトレンチコートを着た背の高い男が立っていた。
うわっ、格好いい人っ、と思わず思ってしまったが、逸人はやとだった。
ダブルブレストのトレンチコートに同色の革の手袋。
……お前は何者だ、と思っていると、側に居た千佳が、
「なんだ、やっぱり、あのときの人じゃん」
と笑って肩を叩いてきた。
違うよ。
そっくりなのは、顔だけだよ……。
お前の目は節穴か、と思っている芽以に、千佳は、
「引っ越し、なんか手伝うことがあったら言って。
じゃ」
と言うと、逸人に頭を下げ、さっさと行ってしまう。
どうやら、お邪魔にならないよう、気を使ってくれたらしかったが。
……一緒に居てくれてよかったんですよ、と芽以は逸人を見上げ、青ざめる。
逸人と二人きりになると、緊張するからだ。