パクチーの王様


 なんだろう。
 涙が出るな。

 自分の人生にこんな瞬間や、こんな感情が訪れる日が来るなんて思ってもみなかった。

 芽以は自分のエプロンを握りしめ、
「……逸人さん」
と消え入りそうな声で呼びかけた。

「大好きです」

 初めてハッキリ口に出して、そう言った気がする、と思った。

「生まれて初めて、好きだと言った相手が貴方でよかったです。

 でも、初めも、最後も、真ん中も。
 きっと、ずっと貴方だけです――」

 逸人が芽以の肩に手をやり、抱き寄せる。

 芽以は逸人の腕に触れ、その白いコックコートの胸に顔を埋うずめた。

「……すごくパクチーな匂いがします」
「嫌か?」

 脱いでこようか? と言う逸人を笑って見上げ、芽以は言った。

「いえ、大好きです!」

 逸人がそっと唇を重ねてくる――。