「お客様は神様ではない。

 お客様はお客様だ。
 かしずくのではなく、大切にもてなしたい」

 友人をもてなすのと同じように、と逸人は言った。

 芽以は、なにも聞かずとも静《しずか》にココアを入れていた逸人を思い出していた。

「これ……っ」

 これが大切にもてなしてんのかっ、とずぶ濡れな男は言おうとしたようだ。

 だが、やはり、それも言えなかった。

 逸人がよく通る声で先に言ったからだ。

「友人なので、気に食わなければ、縁を切る」

 ……切るんだ、と泥酔した客ではなく、正気な客たちの方が凍りついたような顔をしていた。

 男はなにも反撃してきていないのに、更に逸人は言いつのる。

「さあ、SNSで拡散するがいい。
 ……丁寧におもてなしをするには、ちょっと客が多すぎると思ってたところだ」

 ひっ、と客たちが固まる。

 シェフ!
 私は来させてくださいっ、とみんなの顔には書いてあった。

 ……此処は、頑固な寿司屋か、と芽以は苦笑する。