近くに居た常連の奥様が見兼ねたらしく、立ち上がったそのとき、誰かが男の頭から、水をかけた。

 大きなピッチャーを手にした逸人だった。

「おっ……」

 なんて言おうとしたんだろうな、と芽以は思った。

 お前、なにしやがる?

 俺はお客様だぞ?

 なんだったにせよ、彼のその言葉は口からは出なかった。

 逸人が張りのある声で、先制攻撃のように言い放ったからだ。

「お客様は神様ではない」

 先日、芽以に、
「タネは死んだ」
と言ったときと同じ口調だった。

「お客様は神様ではない。
 帰っていただいて結構だ」

 お、お客様は神様ではないかもしれませんが。

 なにやら、王様らしきものが此処に居るのですが……となにを語っても、説得力のある口調と態度の逸人をみなが見上げていた。

 王様だ。

 パクチーの王様だ。