パクチーの王様


 この人の場合、こちらからも頑張って意思表示するべきだな、と思い、恥ずかしいながらも、芽以は頑張って頷いてみた。

 安堵の表情を浮かべたらしい逸人が身を乗り出してきた。

 芽以の手をつかんだまま、口づけてくる。

 すぐに目を閉じればよかったのに、うっかり、美しい逸人の顔を間近に見てしまった。

 そのまま、布団の上に押し倒されそうになった芽以は、
「まっ、待ってくださいっ」
と思わず、叫んでいた。

 ちょっとストップ、ストップッと芽以は逸人の肩を押して、思いとどまらせようとする。

 往生際悪いな、という顔で逸人が見た。

「すっ、すみませんっ。
 私っ、貴方に襲われる自信がありませんっ」

「何語だ、それは」

 意味がわからない、と逸人は言う。

 いやいやいや。
 だって、逸人さん綺麗過ぎてっ。

 至近距離でこれですよ。

 私なんてもうっ。

 いやいやいやっ。
 近寄らないでくださいっ!

 ああでも、逸人さんって、目が悪かったんだっけ。

 でもでも、普段は眼鏡かけなくていいくらいだったよね、とかいろいろ考えている間に、芽以は逸人に布団に押しつけられていた。