真後ろまで迫り来ていた千佳が、先程までの体育会系な雰囲気を完全に消し去り、笑顔で、

「いらっしゃいませ。
 大原様ですね」
と警備員さんに代わり、イケメンくんの応対をし始めた。

 さすが、素早い……と苦笑しながら、芽以は警備員さんから、夜間に行った業務の引き継ぎを受ける。

「まあ、結婚も女の幸せのひとつよね」

 エレベーターホールへと去りゆくイケメンの背中を見つめながら、千佳が言ってきた。

 女の幸せね。

 脅されながら、日々、パクチーの匂いを嗅がされる生活がか……と芽以は思う。

 全面ガラス張りのエントランスホールから外を見た。

 あー、寒そうだが、いい天気だ。