だが、
「いや、単なる息抜きだ」
と圭太は言った。

「意外とこの間、楽しかったからな。
 会社の人間じゃない人たちと話をするのも新鮮で面白いし」

 圭太がそう言う気持ちもわかる気がした。

 良くも悪くもお客さんにはいろんな人が居るからだ。

 ちなみに、芽以は、困ったお客さんに遭遇したときは、心は遠くを見つめ、謝罪を繰り返すことにしている。

「心を無にしようとしすぎて、仕事中に無我の境地に陥《おちい》りそうになりました……」
と逸人に言うと、

「そういうときは俺に言え。
 厨房に居ると、ホールのことは見えないからな」
と言ってくれる。

「いえまあ、結構、彬光《あきみつ》くんが役に立ってくれてるので」

 あの空気を読まない発言に、逆に客が引くからだ。

 本当に読んでないのか。

 それとも、読めないフリをしてかばってくれているのかは謎だが。