パクチーの王様


 息を止め、もしゃもしゃとパクチーを噛み砕いた芽以は、口の中のパクチーをすべて飲み干したあとで、水を飲んで呟く。

「なんかカメムシの方がマシな気がしてきました……。

 今、カメムシなら食べられる気がします。

 カメムシは何処ですか」

「落ち着け、芽以」
と錯乱している自分に冷静に逸人が呼びかけてくる。

 哀れな自分を見下ろす逸人の慈愛に満ちた微笑みは、縮こまった胃に染み入る美しさだ。

 ああ、それにしても、すごい匂いだ……。

 運んでいるときの比ではない。

 なにせ、身体の中から匂ってくるのだ。

 美味しい食材も、この店も、逸人さんも。

 この世界のすべてがパクチーに汚染されていく。

 取材の女性と話したときに頭に浮かんだゾンビたちが、今、パクチーを手にこの街をさまよっていた。

 いや、さまよっているのは、お前の頭だと言われそうだが。