パクチーの王様

「無理はするなよ」
と逸人は言った。

 一発目の海鮮炒めは、たぶん、もっともパクチーの匂いがしない料理として、逸人が選んだものだ。

 だが、これは……と芽以は、ピザの上に鮮やかに盛られたパクチーを見ながら惑う。

 しかし、日々育てた、パクとチーとの思い出が蘇ってきた。

 ああ、いや、パーとクーとチーか……と既に錯乱しながらも、芽以はピザに手を伸ばした。

 一週間という短い期間ではあったが、朝日を浴びたパクチーに話しかける日々。

 窓を開けると、風にそよいで、挨拶を返してくれるように見えていたパクチー。

「いただきます」
と手を合わせ、神妙な顔でピザを手に取ったが、逸人は、

 いや、お前、もうさっき、パー、クー、チーの一部食ったろ、という顔をしていた。

 ぱくりと口に入れ、噛んでみる。

 アンチョビの味しかしなかった。

 私の愛が勝ったかっ、と思ったのだが、すぐに鼻を突き抜けるような匂いがしてきた。

 倒したはずの魔王が、大軍を引き連れて戻ってきた気分だ。