パクチーの王様

「いえ、今のところ、うちだけですが」
と芽以が言うと、大原は少し考えるような顔をしたあとで、

「もしかして、杉原さんの旦那さんって、逸人さん?」
と訊いてきた。

「えっ?
 ……逸人さんをご存知なんですか?」

 えっ? と言ったあと、一瞬、詰まってしまったのは、本当は、
『主人をご存知なんですか?』
と言うところなんだろうなあ、と思ったからだ。

 だが、まだ、あの人を主人とかいう度胸も自信もないな、と思っていると、大原は、

「いや、僕、相馬にも良く行くんだよね」
と少し慎重な口調になって行ってくる。

 どうやら、圭太の会社とも取引があるようだ。

「逸人さんが辞めてしまったの、本当に残念だったよ」

 大原は、そう、なにか含むところがあるように言ってくる。

 あの、と芽以は迷いながらも、大原に訊いた。

「私、圭太とも幼なじみなんですけど。
 今、会社で、なにか起こってますか?」