「そういえば、夜中に口笛を吹くと、蛇が来るとか、人さらいが来るとか言いますよね」

「吹かなきゃいいじゃないか」
と言うと、

「いや、私、口笛吹けません」
と芽以はまだ戸口の方を見ながら言ってくる。

 ……じゃあ、そもそも心配するな、と思ったとき、芽以が、じっと自分の手にある眼鏡ケースを見ているのに気がついた。

 かけないで居ると、芽以を追い払うのに取ってこいと言っただけだとバレるだろうか、と思いながら、
「いや……たまには磨かないとな。
 冬だし、曇っているかもしれん」
と言い訳のように、よくわからないことを言ってしまう。

 銀食器か、と思いながら。

 すると、芽以が、
「かけないんですか?」
と訊いてきた。

「特にかける予定はないが……」
と言うと、何故か、

「せっかく取ってきたのに」
としょんぼりする。

 しょんぼりする意味がわからないんだが、と思いながら、逸人は眼鏡ケースを手に立っていた。