逸人が中に入ると、茶色い革の眼鏡ケースを手に降りてきた芽以が、急いで裏口のドアを閉めた自分を見て、心配そうに訊いてきた。

「……逸人さん、もしかして、外に居るんですか?」

 気づいていたのかと、どきりとしたが、芽以は、
「なまはげ」
と言ってくる。

 居ると思うのか、このボケが、と思いながら、はい、と眼鏡ケースを渡してくる芽以を見た。

 こんな街中の店の裏口に、深夜、お面つけて、刃物持って立ってる奴が居たら、通報されるだろうが。

「いや、夜は、そのくらい物騒だから、不用意に外に出たりするなという意味だ」

 ある意味、なまはげよりも恐ろしい奴が居たりするからな。

 芽以を外に出したら、襲われるかもしれん、と実の兄を狂犬扱いで思いながら、いりもしない眼鏡を受け取ると、芽以は裏口の戸を窺いながら言ってきた。