『兄貴。
 日向子と結婚すると覚悟を決めたのなら、日向子を大事にしてやれよ。

 結婚が決まる前より、不安定になってるぞ、あいつ』

 まあ、確かにこのままでは、日向子と居る意味はないよな、と思ったとき、ふと、気がついた。

 ……あいつ、俺を兄貴って言ったか?

 いつ頃からか、逸人は自分を兄とは呼ばなくなっていたのに。

 芽以がいつの間にか、逸人に対して敬語になっていたように――。

 振り返り、圭太は暖かな光の漏れる裏口のドアを見る。

 まだ、微かに二人の話し声が聞こえていた。

 すりガラスのはまったドアを見つめる視界になにかがチラつく。

 いつの間にか、また、雪が降り出していたようだった。