「血判は嫌ですっ!
 血判はーっ!」

 一生、離婚できなさそうだっ、とおのれの親指を死守しようとしたが、

「お前が印鑑忘れてくるから悪いんだろうが。
 早くしないと、俺の決意が揺らぐだろ」
と勝手なことを言いながら、逸人は包丁を近づけてくる。

 ひーっ。
 この人、本気ですよーっ。

 いや、そういえば、子どもの頃から、すべてに本気な人だった! と思いながら、芽以は慌てて、鞄を開ける。

「あ、ありますっ。
 ありますっ。

 鞄の底に、三文判ーっ!」
と黙っていようと思っていたその事実を告げてしまう。

「あるなら、早く出せ」
と言われ、ポン、と軽く事務処理をするようにハンコを押されてしまった。