「私、圭太とだと緊張しないけど、逸人さんとだと緊張してしまうんです、昔から。
 二人きりになると、なにしゃべっていいか、わからなくなったりして。

 でも、それは逸人さんが嫌いだからとか言うんじゃなくて。
 むしろ、逸人さんの方を尊敬してたから――」

 そう言いながら、芽以は俯く。

 そうだ。
 自分はずっと、二つ下の逸人を尊敬していた。

 敬語で彼としゃべっていたのもその証あかしだ。

 逸人の手がそっと芽以の頭に触れた。

「……頑張るよ、芽以。
 二人で居るとき、お前にそんな風に硬くなられないよう。

 もう少し、お前に親しみを覚えてもらえるよう……」

 頑張る――。

 そう言って、逸人は軽く芽以の額に口づけ、出て行った。