パクチーの王様

「夕食は食べたのかね。
 軽く食べて行きなさい」

 帰ってゆっくり食べようと思っていたのに、という顔を逸人はしたが、ふんだんに神田川の野菜を使っていると聞いて、気が変わったようだった。

 ダイニングに通されると、壁際のバイオエタノールの暖炉が視界に入った。

 こんなのあったっけ? とモダンなデザインのその暖炉を見ていると、逸人の母、富美《ふみ》が笑って言う。

「あら芽以さん、気づいた?
 リビングのソファも変わってたでしょう?」

 ……まさか、甘城を招待したからですか、おばさ……

 お義母さん、と思う。

 やはり、甘城の家に相当な対抗意識があるようだった。

 下手に家の格が同じくらいなので、どちらが上に立つかで、水面下で激しい攻防戦が繰り広げられているようだった。

「芽以さんのご両親もいずれご招待しようと思っているんですけどね」
と言う富美に、芽以は強張り、いいえ、結構です、お気遣い無く、と思う。

 うちの親がこんなところに招待されても、気詰まりなだけに違いないからだ。