「彬光はなにかこういう店での経験はあるのか?」

 そう逸人に問われ、はいっ、師匠っ、という勢いで、彬光は振り返った。

「高校時代、ちょっとバイトしてましたっ。
 家の近くのファストフードの店で」

 逸人は、そうか、と頷いたあとで、
「お前は厨房をやりたいのか?
 それとも、ホールをやりたいのか?」
と彬光に訊く。

 なんかあの、詰問口調なんですけど、これで、この人、普段通りですからね。

 彬光が怯えてしまわないだろうかと窺ってみたが、彼は、まったく気にしていないようだった。

「厨房入ってみたいですけど。
 まずは芽以さんを手伝って、ホールの仕事をやりながら、マスターの仕事を拝見したいですっ」

 マスターって……喫茶店ではないんだが、と苦笑いしながら思っていたら、彬光はそんな芽以の表情を見て笑い、
「ああ、そのマスターじゃなくて。
 ほら、拳法の達人とかのイメージなんで、師匠。
 ああいうのって、はいっ、マスター! とかって、弟子が言うじゃないですかっ」
と左の手のひらに右の拳を打ち付け、少し頭を下げながら、言ってくる。

 いや、なんかいろんな映画が混ざってる気が……。

 っていうか、此処は武道場じゃなくて、レストランなんだが……。