「パクチーソースをかけるものがいいと思いますよ。
 ご自分で量を調節できますし」

 圭太は、どぶどぶかけてたっけな、とぼんやり思い出しながら言うと、彼は、
「……では、まったくかけない、ということも可能なのですね」
とまるで、内緒で、よく当たるロトの番号教えます、と言ってくる人のような怪しげな顔つきとヒソヒソ声で訊いてきた。

 いや、貴方、なにしに此処に来ましたか、と思ったあとで、窓の方を振り返る。

 外の看板のパクチー専門店の文字が小さかったろうかな、と思ったのだ。

「では、この野菜とチキンのロースト、パクチーソースで」
と青年は頼んできた。

 ああ、はい、と芽以はその注文を逸人に伝えた。

「あの、あのお客さん、パクチー苦手みたいです」

 一応、逸人にそう教える。

 ちょっとパクチーの風味を薄くするとか、量を減らすとか出来るかもしれないと思ったからだ。

 逸人は厨房から、チラと彼を見、
「……わかった」
と言った。

 ――わかったようではあるが、なにも薄くしてはくれなかったが。