「はい。
 うちは代々、相馬《そうま》家に無農薬野菜を納めさせてもらってるので」
と神田川は言う。

 そういえば、さっき、逸人さん、と名前で呼んでたな、と思ったとき、目の前に先端のよく尖った肉切り包丁が出てきた。

「芽以、その手を離せ」

 ひっ、と思いながら、芽以は、うっかり神田川の手に触れたままだった手を離す。

「三分以上、男と話すな。
 ふしだらな女だな」
といつの間にか後ろに立っていた逸人が言ってきた。

 ははは、と神田川が笑う。

「いや、私のようなものまで、そういうくくりに入れていただいてありがとうございます」

「いえいえ、神田川さんは素晴らしい方です。
 いいですね、このパクチー。

 吐き気がするほど、香り高くて」
と逸人は素敵な笑顔で言い出した。

 そのまま、二人はパクチーの出来について語り合う。