パクチーの王様


 夫婦になったとはいっても、全部、会社と圭太のためなのだろうに。

 圭太に放り出された私がごちゃごちゃ言ってこないように、私を引き受けてくれただけなのだろうに。

 それなのに、こんな風に慰めてもらったり、抱きしめてもらったりしたら。

 なんだか泣きそうになってしまうではないですか。

 まるで……本当の夫婦みたいで。

 そう思いながら、顔を上げ、芽以は逸人を見つめた。

 逸人は視線をそらしかけたがやめ、もう一度、芽以と視線を合わせてきた。

 だから、芽以も素直な気持ちを逸人にぶつける。

「みんな、私は圭太のことを好きだったんだろうって言うけど、よくわかりません。

 あのままプロポーズとかされてたら、受けてたかな、とは思うけど。

 それはただ、いつも一緒に居た相手で。
 側に居ると楽しいから。

 男の人として好きだったのかは、今でもよくわからないんです。

 なんていうか。
 好きになる前に、ひょいと取り上げられてしまった感じで。

 ずっとあのクリスマスイブの夜から、宙ぶらりんな感じなんです」