まあ、おそらく、物が落ちてないか、何処かにシミがついてないかを見ているだけなのだろうが。
何故か、失敗できないっ、という緊迫感が漂っているので、そう見えた。
そんなところまで客は確認しないと思うが。
誰がすると思ってるんだ?
ああ、俺か、と思ったとき、先程の呼びかけに、芽以が、
「はいっ」
はい、教官っ、という言葉が後ろにつきそうな勢いで返事をし、立ち上がってきた。
……俺たちの間に、新婚夫婦らしい艶っぽさなど、何処にもないな、と思いながら、昼間の圭太からの電話を思い出していた。
今、あいつがやって来ても、胸を張れる自信はないな、と思う。
俺と芽以はもう夫婦なんだから、と圭太の存在にビビらず、胸を張れる自信。
さっき、
『電池は切らすな。
なにかあったとき、連絡つかなかったらどうする』
と言ったのは、
いきなり、圭太に遭遇して、襲われたらどうする、と思っていたからだ。



