パクチーの王様

『いや、俺だよっ。
 切るなよっ』

 お前だよ。
 だから、切ってんだよ、と逸人は思う。

 電話線を引き抜いてやろうか。

 いや、客からかかってきたら困るしな、と思ったとき、相手が叫んだ。

『なんなんだよっ。
 なんで正月来ないんだよっ。

 年末年始に、せめて、芽以に会えるように、芽以をお前と……っ』

 あれから一週間も経つのに、まだ錯乱中らしい、と思う。

 何故、かけてくる。

 どういう神経をしてるんだ。

 正月早々、小吉どころか、大凶だ、と思いながら、圭太からの電話を叩き切ろうとしたとき、圭太の後ろから女の声がして、なにか揉め始めた。

 日向子か? と思ったが、姉、砂羽《さわ》だった。