いや、待ってください、と芽以は思う。
さっき、
「こんばんは」
と店のドアを開けた次のセリフがこれですか?
だが、真剣な逸人の眼差しに、芽以は白いまな板の上のパクチーを見ながら言った。
「そんなことしたら、パクチーが丸見えじゃないですか」
生春巻きは好きだ。
鮮やかな具材が曇りガラスの向こうにほんのり見えるかのような柔らかく優しい色合いも好きだ。
ああ、海老が入ってるのかー、とか、ほっそいニンジンだなーとか思いながら、中身の味に期待しつつ食べるのも好きだ。
だが、それがパクチーだと。
もちっとした透明な生地の向こうに透ける緑。
目に鮮やかで綺麗だが、見ただけで、そのカメムシにも似た匂いが鼻に蘇ってきて、げんなりしそうだ。