大晦日の夜にオープンすると決めたのは、何処の莫迦者だろうか、殴りたい。
ああ、そこの莫迦者か、と、まだ厨房で思索に耽ふけっている逸人を芽以は見た。
いよいよ、明日、オープンだ。
まあ、会社も休みに入ったので、ちょうどいいと言えば、ちょうどよかったのだが。
引っ越したばかりで、大掃除の必要もなく、おせちも特に作らないので、年末だから忙しいということはないのだが、街の雰囲気が慌ただしいせいか、一緒にせわしない感じになっていた。
まあ、客もそんなに来ないだろうし、慌てることもないか、と思いながら、芽以は、いつも落ち着き払っている逸人をホールから見た。
……あそこだけ違う空気が流れてるようだ。
逸人はただ黙々と料理の段取りを確認している。
しかし、調理専門のスタッフは一人だが、大丈夫なのだろうかな。
まあ、狭い店だけど、と思っていると、厨房の方でスマホが鳴った。