再殺動

『一年生の時に道葉有を助けたことがありますね?』

「ねえよ。関わったことがあるとしたら、落とした金を拾ってやったことくらいだよ。そんなこといちいち覚えてねえだろ」

外に聞こえないように小声でスマホにこたえる。

『それを今でも大変嬉しく思っているそうです。ですから、思いきり突き落としてください』

「だからなんでそうなんだよ。誰だよ、もういいだろ」

『そのあとは階段下で支える役をお願いしている人物がいるので、その人物に支えてもらい、始さんは駆け寄り優しく抱き起こす。そこまでをお願いします』

「クソみてえなこと言ってないでゲームやらせろよ」

『明日、朝7時に中央階段三階で』

始の返事を聞く間もなく話は切れた。
始は真っ黒なスマホ画面をじっと凝視した。
目をぎゅっとつぶり、再び開けるとひとつ大きく深呼吸をした。

俺のことは無視で、用件だけ告げるとかあるかよ。でも、嘘か本当か分からないが、学校一の美女、全国的にも有名な女子高生の道葉有が俺に頼み事をしてきている。

唾を喉に流し込み、埃の被った姿見で自分の姿を確認した。そこにはスウェット姿でぼさぼさ頭のだらしのない自分がなさけない格好で座っていた。