太郎と侍は楽しそうに肩を揺らし、昭子は何食わぬ顔で酒を飲み干し、おかわりと太郎にグラスを向ける。
 太郎はルーティーンワークのように酒を注ぐ。猫夜は話を続けた。

 犬飼は飼い犬でした。散歩は決まって夜でした。
 夜の公園は人がいないのでリードを離され、思い切り走り回れたんです。

 つかの間自由に走り回って無駄にありあまる体力を消費にかかっていたところでした。
 あたしは寒さに凍えどこかへ移動する体力も元気もありませんでした。

 雪が降っている中、降ってくる雪を食おうと口をパクパクさせているバカ犬を、心の中でただひたすら、さっさと去ればいいのにと思っていました。気づかれないように石のように身体を硬くして目を閉じていました。

 ええ、石になったと思い込むことにしたんです。え? なんでかって? そりゃあ犬が石を咥えてどこかへ持っていくなんて今までに聞いたことがありませんでしたから。

 無を決め込んでいたんですが、ひょいと首に温かいものを感じて思わず目をあけたら、なんと犬飼があたしを咥えていたんですよ。
 まったく困りましたよ。あたしはそのとき石になりきってたんですからねえ。

 でも、犬は巨体でしたから、か弱き子猫のあたしは成す術なくただただ成り行きに任せるしかなかったのでございます。
 ふと、人の声が聞こえまして、上目遣いに見上げたのが間違いでした。

 あたしら猫が上目遣いに見上げたら、可愛いというほかに言葉がないというのを忘れていましてね。
 ええ、ええ、犬も上目遣いに見ますけどそれはただ媚びてるだけで、張っ倒したくなりますでしょ、ええ、同感です。

 それでですね、その人っていうのは男でございました。男の人が目の前にいたんですよ。
 それが犬飼の飼い主でした。