三

 あれはあたしがあの男に拾われてすぐの頃から起こりました。

 冬の夜の寒空の下、あたしは公園の植木の下で寒さに震えて丸くなっていたんです。
 空気も冷たく気温も低かった。夜も深まるにつれ、しんしんと雪も降りはじめ、体力気力もすっかり消え失せていました。

 なんせ何日も飲まず食わずでしたから、子猫のあたしにはもう限界でございました。
 ああああ、もうダメだ。ここで死ぬんだ。こんなことならば毛繕いは大変だけど長毛の猫に生まれたかったと己の短毛を恨めしく思って、嘆きながら死を迎えようとしていたときのことでした。

 急に、気分を害すほどの生臭さが鼻についたんです。
 強烈な臭さに飛び跳ねると、そこに犬飼がいたんです。
 臭いの元に目を向けると、そこには犬飼がいて、当の犬飼は嬉しそうに、でも心配そうにあたしを見下ろしていました。

 イラッときました。無駄に体力を使ってしまったんですから。
 死ぬとわかっていても、一秒でも長く空気を吸いたい、土のにおいを感じていたかったんです。

 ですから、犬飼の鼻にパンチをくらわせました。あたしの力強いパンチに犬飼は怯み、逃げ出しました。
 あたしは今一度体制を整えて丸くなったのでございます。