「これは話が早くていいや。で、猫夜さんはこれからのことをわかっているみたいだけど、犬飼さんはわかっちゃいないふうに見えるがねえ」

「まあ、猫ちゃんがわかってるならいいんじゃないかい? そのうち思い出すさ」

 昭子が酒のグラスを横に振る。太郎はそこに酒を注いでやる。己にはこんぶ茶を用意した。
 こんぶ茶を一口飲んで喉を鳴らし、「それで、なんでここに現れたかってことだけど」持っている湯呑みを猫夜に向けて話の先を促した。

「はい、ここに来られたってことはあたしらの番になったってことですよね。ですが、あたしらは侍さんのことは知っていますが……あたしも犬飼も死ぬ直前まですさまじい怒りと恨みをある男に対して持っていました。そして、死してこの世とあの世との一線を越えてこちらの世界に入っていくらか経ったとき、そこにいる侍さんにばったりと出くわしました」

 猫夜は白くて小さな手を侍に伸ばす。ピンク色の肉球がちらっと見えた。
 侍は猫夜と犬飼が真っ黒い恨みの感情をとぐろのように身体に巻きつけて、ある家の前を行ったり来たりしながらなんとか呪ってやろうとしているのを見て、