犬飼は己の対面(といめん)と左右に座っている人物が自分に好奇心旺盛な目を向けていることに理解できず、ううんと一つ唸った。

 自分の対面に座って体をテーブルの上に乗り出してきているのは金髪にピアス、その目は生きているんだか死んでいるんだかわからずちょっと怖い。そんな顔なぞ見たくもないので無意識に顔を横に背けてしまう。

 左に背けたのがいけなかった。
 侍が持っているような刀を腰にさしているのにお洒落な羽織を羽織った格好をしていて、手にはメロンソーダを持っている変なちぐはぐ野郎がストローでメロンソーダを吸い上げているところだった。

 なんだここは。
 変な家に迷い込んでしまった。ここはあの『うち』ではない。

 ああ、右にはなんと綺麗な女子がいるのか。
 こちらは紅色の着物を着ている。良い香りのする女子であった。
 よし、こちらを向いていよう。そう決めて女子の方に視線を置くことにすると、

「あら、あんたあたしに気があるのかい? 面白い犬だねえ」
 軽く鼻であしらわれてしまった。