「ああ、そうなんですね。私はこうやって殺されたんですね。今となってみれば、なんで抵抗できなかったのかが分かりました。首に手を回された時点で怖くて気絶していたからなんですね」

 くすっと可笑しそうに笑った瑞香に、「そりゃあんたこれから殺されるんだ。怖いだろう、でも気絶したおかげで苦しまずにすんだんだから良かったじゃないか」

 昭子が空気を読まぬ一言を言い、自分で納得するように「そうだよねえ」と自らに言いながら酒の入ったグラスを口へ運んだ。

「瑞香さんの今回の人生は柔らかく冷たいものだった。つまり、柔らかいというのは何不自由なく育ち、人にも恵まれお金にも不自由しなかった。世間の荒波に揉まれることもなく、ひとしきりの幸せを手に入れることができた。結婚もして、幸せだった。ここまでが柔らかいという部分です」

 結局当たり障りない生き方だったのよねと昭子が結論づけ、侍が頷く。
 太郎は苦笑し、眉を困った風に下げている瑞香に「悪気はないんですよ」と己のことは棚上げでフォローを入れた。

「冷たいという部分は言うまでもなく、」

「殺されて土の中にいるからですね。なんだったんでしょうね。私の人生って」

 瑞香が太郎の言葉を引き取って自ら結論づけた。

 もう一度自分の人生を振り返るようにノートを最初からゆっくり絵を眺めながら思い出に浸る。